公益社団法人・電気化学会・溶融塩委員会

中高温溶融塩とイオン液体に関する技術情報

目次:
1. 中高温溶融塩の入手と処理
 1.1. 入手方法
 1.2. 前処理方法
2. イオン液体の入手と処理
 2.1. 入手方法
 2.2. 前処理方法
3. 取り扱い方法
 3.1. 安全上の注意点
 3.2. 不活性雰囲気での取り扱い
 3.3. 電気化学的な取り扱い
参考文献


1. 中高温溶融塩の入手と処理

1.1. 入手方法

中高温溶融塩については、単塩を使用するケースもあるが、2種以上の単塩を混合して溶融したものを使用することも多い。使用する塩は無水塩が推奨され、高純度な原料の利用や原料の精製などが重要である。 国内の主要な化学メーカーが高温溶融塩を構成する単塩の無水物も多く揃えており、各メーカーから情報取得及び購入ができる。また、日本国内の代理店を通して、海外の化学メーカーから情報取得及び購入ができる。 LiCl-KClなどは、共晶混合物も購入できる。

1.2. 前処理方法

中高温溶融塩を構成する単塩は、基本的に化学的に安定である一方、潮解性を持つものも多い。水分を含む塩を加熱すると加水分解するため、酸化物イオンや水酸化物イオンが含まれる高温溶融塩となり、腐食性の発現などの問題が起こりうる。 そのため、市販品の塩を実験で使用するにあたっては、多くの場合で精製が必要となる。
不純物除去方法の典型例として下記を紹介するが、詳細については末尾の参考文献を参照のこと。

  • 水分の除去
      a 不活性雰囲気での加熱乾燥(硫酸塩系、水酸化物系、リン酸塩系など)
      b 温度、雰囲気を制御して加水分解を抑えた真空乾燥脱水(アルカリハロゲン化物、硝酸塩系など)
      c 活性ガスの通気(HCl又はCl2 → 塩化物、CO2 → 炭酸塩、H2, HF → フッ化物)
        ※NH4ClやNH4Fを塩と一緒に加熱してガスを発生させる方法もある。
      d 昇華法(AlCl3、ZnCl、FeCl3など)

  • 金属イオンの除去
      a 構成する高温溶融塩に含まれる金属の浸漬
      b 高温溶融塩の分解電圧以下での予備電解


Topに戻る

2. イオン液体の入手と処理

2.1. 入手方法

  • 合成
    十分な知識があれば、合成は比較的容易である。簡単なものでは、目的のアニオンおよびカチオンを含む塩をそれぞれ入手して、溶媒中で混合し、溶媒から分離するだけで得られる場合もある。 ただし精製には、蒸留・再結晶が使えないため、高純度な原料の利用や、後述の水洗やカラムクロマトグラムなどのプロセスが必要である。

  • 市販品の購入
    国内の主要な化学メーカーが各種取り揃えており、高品質なイオン液体が多数市販されている。海外でも主要な化学メーカーが各種取り揃えており、イオン液体を主力製品とするメーカーもある。

2.2. 前処理方法

  • 合成後の不純物の除去
    合成後のイオン液体は、未反応物質などの不純物を含んでいる。疎水性のイオン液体では、イオン交換水による洗浄(分液漏斗の利用など)が有効である。粗い洗浄の後、後述の処理を行うことも多い。

  • 市販品の不純物の除去
    市販のイオン液体でもいくらかの不純物を含んでおり、利用用途によっては問題となることがある。ロットによってもその量は異なり、カタログスペックを満たしていながら着色がある場合もある。これらに対しては、カラムクロマトグラムの利用が有効である。不純物とイオン液体のカラム層との相互作用の違いを利用して分ける方法である。不純物がカラムから出てくる前に止める必要があり、処理後のイオン液体の分量は処理前の半分程度になる場合もある。 純度の評価には、一般の有機化合物などと同様の手法(NMR, IRなど)が用いられる。

    カラム構成例: 活性炭層、シリカゲル層、活性アルミナ層などを含むカラム
            → 移動相(ジクロロエタンなど)に溶かした未処理イオン液体を流す
            → 処理溶液から移動相を除去(ロータリーエバポレータ―など)

  • 水分の除去
    イオン液体は、大気中の水分を吸収して物性が変化することがあり、例えば使用可能な電位範囲が狭まることもある。従って、利用用途によっては乾燥が必要である。水分の除去には、ロータリーポンプなどを用いた減圧加熱処理を行うのが一般的である。この際、スターラーを用いて攪拌しながら行うのが効果的である。 水分が多いまま加熱すると、イオン種によっては加水分解が起こり、着色することもある。室温のまま攪拌しつつ真空引きを行い、泡の発生が無くなった後に熱を加えることが推奨される。 イオン液体の含有水分については、ppmレベルの微量分析が求められることがある。カールフィッシャー水分計 (電量滴定型を推奨) の利用が有効である。


Topに戻る

3. 取り扱い方法

3.1. 安全上の注意点

  • SDSに基づく取り扱い
    中高温溶融塩・イオン液体ともに、一般的な化学物質に準じた取り扱いが必要である(白衣/作業着・手袋・安全眼鏡など)。毒劇物に指定されている試薬も存在するので、注意が必要である。試薬の製造元・販売元が発行している安全データシート(Safety Data Sheet, SDS)を入手し、よく確認した上で取り扱う必要がある。
    試薬のSDS情報および使用に関する情報は下記が参考になる。

  • 高い温度での実験操作
    水溶液やイオン液体と違い、高温溶融塩は基本的に高温下で使用する。そのため、高温溶融塩自体も含めて、その容器、加熱装置などが高温であることに注意する必要がある。特に、火傷を防止するため、一般的な白衣/作業着・手袋・安全眼鏡などに加えて、耐熱手袋や耐熱保護メガネ、耐熱保護面なども必要となるケースが多くある。また、火災防止のため、加熱装置の周囲に可燃物を置かないことなどにも注意が必要である。

  • 適切な廃棄
    中高温溶融塩を構成する塩には、吸湿性があるものや、フッ化物・重金属塩など、取り扱いに注意が必要なものもある。また水洗時の取扱いにも注意が必要である。
    イオン液体は一般に有機物であり、ハロゲンを含んでいるものも多い。廃棄にあたり水道に流すことは許されない。 各大学・研究機関・企業などの取り決めに従い、正しく廃棄することが求められる。

3.2. 不活性雰囲気での取り扱い: グローブボックスの利用

  • グローブボックスとは
    高温溶融塩、イオン液体ともに、多くは大気中での安定な取扱いが十分可能である。一方で、大気中の水分を吸って物性が変化することも少なくない。これを避ける必要がある場合には、乾燥雰囲気、不活性雰囲気での取扱いが求められる。 有効な対策の一つが、グローブボックスの利用である。グローブボックスは、密閉された空間の中におかれた試薬や器具を、グローブを介して外から操作できる装置である。内部は不活性ガスで満たすことができ、水分や酸素を取り除く循環装置が付属しているのが一般的である。

  • グローブボックスの活用例
    グローブボックスは、乾燥雰囲気・不活性雰囲気を実現するものだが、その活用の仕方は様々である。
    • グローブボックス中で実験を行う
      実験装置が十分小さい場合は、ブローブボックス中で実験を完結できる。例えば多くの電気化学測定は、ボックス内の測定セルを、「フィードスルー」を通して、ボックス外のポテンショスタットと接続することで、測定が可能である。
    • 容器の密閉をグローブボックス中で行う
      グローブボックスに入れられないような装置で実験を行う場合、密閉可能な測定セルを利用することが多い。グローブボックス中で試料を入れて密閉した測定セルを、ボックス外に取り出し、種々の実験装置を用いて実験を行う、ということである。現実的な実験方法であるが、密閉容器でも大気の流入を完全には防げないことにも留意されたい。
    • グローブボックスを改造する
      グローブボックスと測定装置の間を直接接続し、外気にさらすことなく実験ができるように改造を行うこともある。

  • グローブボックスの種類と選定
    • 材質
      ステンレス製と樹脂製に大きく分かれる。必要な水分量に応じて(前者のほうが低水分量)選定する。
    • 真空型/フロー型
      内部を真空にできるタイプと、ガスをフローするタイプがある。達成できる水分量は変わらないが、前者のほうが立ち上げ時に内部の乾燥に必要な不活性ガスの量が少ない、という特徴がある。
    • ガス精製方式
      内部の雰囲気について、水分も酸素も除去できるものが多いが、水分のみ除去するものも市販されている。これらは循環精製装置の機能による。グローブボックスとは別売りとなっている場合もあるので、注意が必要である。
    • 特注品
      多くのメーカーが、規格品のほかに特注での製作も請け負っている。グローブボックス自体のサイズ、試料や器具を内部に導入する際の入口部分のサイズ、ボックス外部から内部へつながる電源・導線・ガス導入口などの数、別の装置との接続など、実験条件に応じた対応を請け負ってもらえることが多い。


    3.3. 電気化学的な取り扱い


      高温溶融塩 イオン液体
    測定セル るつぼ(容器)材料は、高温溶融塩の反応性および高温環境を考慮して選定する。セラミックス(Al2O3、MgO、BNなど)、金属(Fe, Niなど)、グラファイト、など。材料によって高温溶融塩との濡れ性も変わるため注意が必要。 水溶液などと同様、ガラスセルが使われることが多い。ただし、イオン液体は高価であるため、小容量のセルが推奨される。測定環境によっては密閉機能も必要となる。
    作用電極 金属や合金電極・炭素電極が用いられることが多い。酸化物(TiO2、MnO2など)や半導体電極(Siなど)が用いられる場合もある。 水溶液などに準ずる。特別避けるべき電極材料などはなく、様々な電極が用いられている。
    対極 陽極となる場合は炭素電極、陰極となる場合は金属電極の使用例が多い。 水溶液などに準ずる。作用極と同じ材料がよく使われる。
    参照電極 銀‐塩化銀電極(典型例:AgClを数wt.%含む塩に銀線を埋め込み、パイレックス管やムライト管に入れたもの)を自作して使用する場合が多い。水溶液中で用いられるものとは構成が異なることに注意。高温溶融塩中の陽イオンと同種の金属線を使用する場合もある。フッ化物のように酸化物への腐食性の高い塩では、擬似参照極として白金線などを用いる。 Ag/Ag+電極(典型例:Ag塩を溶かしたイオン液体中にAg線を浸漬したもの)などがよく使われる。自作も可能だが作製キットも多数市販されている。 Pt線などを擬似参照極として使うこともある。この場合、Fc/Fc+などの酸化還元電位を内部参照として使うことも多い。
    測定装置 ポテンショ/ガルバノスタットを用いる。高温での測定となるため、場合によっては熱起電力を考慮する必要がある。 ポテンショ/ガルバノスタットを用いる。イオン液体は、粘度が高く液抵抗が高いことが多いため、RI補償機能を持つ機種が推奨される。
    準備など るつぼおよび反応容器については、水などで洗浄の後、高温で十分な乾燥をしなければならない。密閉容器を用いる場合は、反応容器中のガスを不活性ガスで置換を行う。 いわゆる非水溶媒中での電気化学に準じた取り扱いが可能である。ガラスセルや電極の洗浄には、酸洗浄やアルカリ洗浄などが使える。洗浄後には真空乾燥機などを用いた丁寧な脱水・乾燥が必要である。



    Topに戻る

    参考文献


    電気化学会の季刊誌「電気化学 (Electrochemistry)」には、高温溶融塩やイオン液体の実験的な取扱いに関する詳細な日本語解説記事が掲載されています。
    以下の記事は誰でも無料で閲覧可能です。
    (発行後1年以内となる最新の記事の閲覧には、電気化学会へのご入会が必要です。)
    電気化学会溶融塩委員会では、「溶融塩化学講習会」を毎年開催しています。
    高温溶融塩やイオン液体の取り扱い方についての講習会です。実験講習会も数年に一度開催しており、イチから扱い方を学ぶことができます。
    テキストが会員限定で公開されています。溶融塩委員会へご入会のうえ、閲覧ください。
    以下の書籍もご参照ください。
    • 伊藤靖彦, 溶融塩の科学, アイピーシー(2005)
    • イオン液体研究会, イオン液体の科学 新世代液体への挑戦,丸善出版(2014)


    ※ こちらに掲載した情報はあくまで参考資料であり、実際の取り扱いの際にはご経験のある方の指導に従うことを推奨いたします。



    広告ご出稿企業様